農作物を作ることは魅力的です。でももっと違う形で携われないかなと思っています。
地域の活性化を目的に、国の支援より行われている『地域おこし協力隊』。主に都市圏在住の方を募集し、その新しい視点で地元の資源(食材や観光)の活用を図りつつ、Iターンを促す制度だ。大手企業を退職し、この8月から鹿屋市の地域おこし協力隊に赴任した新美了さんに、お話を伺った。
農業に対する思いの丈を声にだす
山口県光市出身の新美さん、何か鹿屋市との縁があったのだろうか?
「NTTデータ勤務のとき、当時の所属部署の上司に食品関連の仕事をしたいと直訴し、食品のマーケティングをする関連会社に出向が認められました。さらに出向中、本社の社長に農業事業部の立ち上げを直訴。双方の思いがぶつかり社長秘書が止めに入るほどの大喧嘩となりましたが、『まずは農業現場を見てこい!』という社長の一言を引き出しました。そして研修させてくれる農業現場を探すことになったのです。そこで農業×ITで全国でも脚光を浴びていた志布志市の〈農業法人さかうえ〉見つけ出し、本社の事業部長と一緒に〈さかうえ〉の社長に研修依頼をして許可されたのが、鹿児島との最初の縁です。」
その後、同社での1年間の農業研修を経て、本社経営企画部に復帰し、当時の上司と共にアグリビジネスグループを立ち上げたのだという。
農業への可能性を意識する
そもそも、農業に関心を持ちながら、IT関連会社に就職したのは、なぜなのだろう?
「中学生の頃から農業に対する魅力、可能性をすごく意識していました。人が生きるためには食べることが必要不可欠だから。東京農大に入った頃は、将来食品メーカーや商社の食品部門を就職先に希望していたように思います。実は在学中に、仲間とインターネット販売の会社をおこしたんです。卒業生のネットワークを活用すれば、食関係の商品を集めるのはそんなに難しくない。そこで大学の協力を得ながら、商品を集めて販売していました。ネット販売に必要不可欠なのが決済システムです。それを学ぶ過程で、NTTデータの方と知り合ったんです」。
20歳の若者が、自分のおかれた環境(農業大学の学生)を見渡し、それを活用し、実際にビジネスとして実行している姿は、社会人の立場からしても頼もしく見えたに違いない。
家族からの反対
もちろん、入社してすぐにやりたいことをすぐにやらせてもらえるはずもなく、1年目は、システムエンジニアとして、ドイツの基幹会計ソフトの会社であるSAP社の新しいソフトの性能試験の仕事をしていたという。
「当然ドイツ語の理解が必要になります。まさに毎日がドイツ語の辞書との格闘!」。
そんな生活を送りながらも、農業に対する思いだけは途切れることはなかった。そして最初に触れたような経過をたどることになる。そんな中、社長の交替により自ら立ち上げたアグリビジネスグループが廃止される。それをきっかけに、新美さんは鹿屋の地域おこし協力隊に応募することになる。
「当初は、結婚するということもあり家族からは猛反対を受けました。でも少しずつ説得し、結婚式を済ませ、8月にやっと移住することができました」。
キャビンアテンダントをしていたという奥様と一緒に鹿児島にやって来た訳だが、
「収入だけをみると自分だけも4分の1くらいになるので、妻の分まで合わせるととんでもない減収ですよね(笑)」。
鹿屋に来て、自分自身の行動が変わった
普通、そこまでしてなぜと思ってしまうが、それに対し新美さんは、
「ほんとうに来てよかったと思っています。前の会社にいれば経済的には不自由なく生活できた。でも20代後半を過ごしていて日々が同じペースで飼いならされた感覚がどうしてもありました。それがこちらに来て、自分自身の行動が変わりました。自分で判断し決定できることが多くなったため、以前、内部での調整にかかっていた労力をクリエティブなことに使えるようになりました。おかげで仕事量が増え、今では土日もありません(笑)」。
『地域おこし協力隊』の制度上遅くても、3年後には独立しなければならない。そこには相当なプレッシャーもあることだろう。現在は、これまでの事業計画に沿った形で、自らのエッセンスを入れ地域の活性化に資する事業計画をしているという。
「市役所の方々をはじめ、この地域では協力してくださる方が多いんです」。新美さんの人柄のあらわれだと思う。「地域を盛り上げるためにも、やりたいことがいっぱいある」。という新美さん、これからの活躍が楽しみだ。
取材 2014年11月