"鹿児島の温泉を残したい・伝えたい"
温泉ソムリエという仕事。温泉にまつわる人や歴史を広く情報発信しながら、人と入浴の間のよい関係性をはぐくむその仕事の裏側にせまる。
温泉ソムリエ協会という団体が認定する温泉入浴の専門資格として少しずつ認知度が広がりつつある温泉ソムリエという資格。この資格や温泉入浴法の広報や指導を仕事にしている人がいる。温泉ソムリエアンバサダー 六三四さんに、温泉ソムリエの日常を聞いた。
きっかけは薩摩川内市の高城温泉
六三四さんが温泉と出合ったは小学生の頃。おばあちゃんの湯治に付き合って、薩摩川内市の高城温泉(たきおんせん)に通ったのが始まりだった。当時の高城温泉は多くの湯治客でにぎわう温泉街。20年後、そんな高城温泉に大人になってから訪れて、衝撃をうけた。「子供の頃に比べて湯治客が激減していました。聞くと、私がよく通っていた他の温泉にも廃業しているところが多くありました。」そんな状況を見て、六三四さんは高城温泉の現状と魅力を発信すべく、当時注目されつつあったインターネット上で、高城温泉をPRするホームページをたちあげる。
入れば入るほど、温泉のとりこに
高城温泉の発信を続けるうちに、少しずつ活動範囲が広がる。近隣の温泉をめぐるうちに徐々に温泉の知識や入浴に関するノウハウを勉強するようになる。温泉入浴指導員、温泉観光士、温泉保養士、温泉観光実践士など、温泉にまつわる多くの資格を取得。いつしかホームページでの掲載件数は1,000件を超え、Googleなどの検索サイトにおいては「鹿児島 温泉」と入力した際、最初に表示される人気ページとなった。「現在、月間ページビュー(閲覧数)は350万件~400万件を誇るホームページとなっています。紹介する温泉についても、県内全ての温泉・銭湯に入りつくし、最近は個人所有の温泉や、野山の中に存在する野湯など、変り種の温泉地を開拓しながら新たな温泉を捜し求めて歩いています。」
温泉情報の発信を仕事に
それまで温泉めぐりと情報発信は趣味の一環と割り切っていた六三四さん。温泉に関係する取り組みを仕事にしようと決意したのは2012年の頃。鹿児島市の起業支援事業を活用して起業準備を始める。一念発起して当時営業職をつとめていた企業を退職。温泉旅館に対する経営支援や、温泉に関する情報発信(温泉ライター)として独立起業する。そのときに取得したのが温泉ソムリエの資格。九州新幹線の全線開業効果もあり、観光業の盛り上がりを追い風に順調に仕事を増やしていく。
多様なメディアで温泉情報を発信。目標は鹿児島の温泉を守ること
いま、六三四さんの仕事の大半は鹿児島の温泉に関する情報発信となっている。自身の運営するホームページ「鹿児島温泉観光課 六三四城」を中心に、テレビ、ラジオ、雑誌にて記者・ライターとしても幅広く活動している。活動のもうひとつの柱は、将来の温泉利用を担う子供たちへの浴育指導。「入浴時のマナーや、健康的な入浴方法を楽しく伝えることで、将来の温泉産業を担う子供たちにこそ必要なんです。彼らが大きくなったときに、温泉文化の担い手として温泉を正しく楽しめるよう、地道な活動を続けています。」この10年間で鹿児島から100箇所以上の温泉がなくなっている。殆どは後継者不足による廃業。一方で、温泉は健康づくり以外に、地域のつながりの拠点としての機能もあり、廃業による地域への影響は大きい。「10年後、20年後、少しでも多くの温泉が鹿児島に残るように、できることは全てやっていきたいですね。最初は好きではじめた温泉の情報発信ですが、いまは使命感のようなものを持っています。」