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歯科衛生士

高3の夏

折田 梨絵(おりた りえ)

"『仕事に対する熱意を感じました。私も頑張ります』
そんな手紙を患者さんからもらったんです。
本当に嬉しかった!!"

大学全入時代と言われる昨今。うらはらに就職は、かつてないほど厳しい。そんな中、求人倍率が高く、将来性も高いとされる歯科衛生士。私たちは現場で働く折田さんに取材を試みた。

高3の夏

中高時代、ただ漠然と教師や心理カウンセラーのような、人と関わる仕事がいいなと思っていた。そんな彼女の人生を急展開させたのが高3の夏、学校見学会の時である。「看護師を目指す親友につきあっただけなんです。当時の私は、正直、大学生のキャンパスライフが夢だったんです(笑)。彼女と見学した学校には看護科のほかに、それまで知らなかった歯科衛生士の養成科もありました。何か直感で『いいな』と思ったんです。そこから歯科衛生士の仕事を調べ始めました。もう、この仕事しかないと思うようになっていましたね(笑)」

歯科衛生士

スキルアップ

高校卒業後、歯科学院専門学校へ進学。この学校で社会人として生きる基礎を叩き込まれたという。「今は3年課程になりましたが、当時は2年課程でカリキュラムはびっしり。遊びたくても、そんな余裕はあまりなかったですね(笑)」座学で知識の習得。先生の指導のもと、学生同士が交互で治療台に座り、歯石取りや型採りの実習。民間の歯科医院や大学病院での臨床実習。歯科衛生士の基本的な知識・技術を学んだ。「2年次には実習先として3つの歯科医院を割り当てられます。今の職場はその一つでした。実際の治療を目の当たりにして衝撃を受けましたね。厳しい実習地でしたが、しっかり学ばせてもらえました」そこは、ある総合病院の協力歯科医院として、入院患者の口腔ケアも定期的に行っていた。実はこれも職場を決める大きなきっかけとなった。「私の祖父は肺炎、おそらくは誤嚥性(ごえんせい)肺炎という口腔内に残る細菌が原因で亡くなっていました。こんな丁寧なケアを祖父が受けていればという思いが頭をよぎりました」ここならスキルを磨いていけるという思いで折田さんは求人募集に応じた。

勉強しないと仕事ができない

歯科衛生士は大きく分けて歯科医のアシスタント業務と、歯科医師の指示の下、予防処置を主体的に行う業務がある。そのどちらもコミュニケーション能力が大切な要素だ。まず歯科医とのコミュニケーションが必要となる。「一般歯科ではどんな症状の方がいらっしゃるかわかりません。症状に対して行う治療方法や治療器具、それに伴う専門用語を知らなければアシストはできません」患者に対しても同様である。患者は歯科医よりむしろ歯科衛生士と接する方が多いかもしれない。「たとえば、『歯周病』は生活習慣病の一つといわれていますが、患者さんの生活背景まで知り、改善できないと根本的な治療はできません。適切な歯磨きも一人ひとり違います。何かを伝えるときも、患者さんの立場に立って考えるようにしています」どのような話し方、聞き方をすれば患者が素直に言葉を切り出してくれるか、さまざまな研修会を通じて勉強してきた。そして何より治療台で交わす患者とのコミュニケーションを通じて勉強してきたと話す。「資格取得のための国家試験の知識は基礎の基礎。そこから勉強を続けないと周りと話ができないし、仕事にならないんです」

子どもが苦手だった

子どもが苦手だった

この仕事を天職だという折田さん。しかし、最初の1、2年は自分には向いていないのでは?もう辞めたい、そう思うこともあったそうだ。歯科衛生士の資質として手先が器用、子供が好きというのも挙げられるが、その両方とも苦手だったのだ。「自分が変われたと思ったのは、経験を積んでどんどん仕事が好きになり始めたときです。予防のために定期的に来院する子供たちと接するうちに愛おしく感じるようになったんです。姪っ子ができたのも大きかったです。手先の細かい作業も苦にならなくなりました。歯・口腔と全身の関わりのことも知れば知るほど興味深いです。最初は内容についていけず苦手だった研修会は、他の職場の衛生士に刺激をうける良い機会になっていますし、結局、仕事に対する意識が変わったせいで世界が変わったんです。ここで出会えた患者さんたちのおかげで、心から役に立ちたいと思えるようになったんです」今後、高齢者向けの口腔ケアや予防歯科の分野をもっと勉強していきたいと折田さんは話す。そこにあるのは『予防ができれば、すべてが良い循環になる。そして食べることができれば人はいろんなことを頑張れる』という切実な思いだった。

取材 2012年6月 No.7 しごとびと