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市役所職員

まちの経済をまわす

松下 俊也(まつした しゅんや)

"商店街の魅力をPRするために行政側からも
素敵な企画を提案したいですね"

住民票、印鑑登録、婚姻届。大人にとっては身近な存在といえる市役所だが、中高生が訪れる機会は少ない。ましてやその職員の仕事を知る機会はめったにない。公務員を志望する高校生が多いが、具体的な仕事はあまり知られていないのが実情だ。なかでも馴染みの薄い経済振興部に勤務する松下さんを訪ねた。

鹿児島市役所みなと大通り別館。その5階に松下さんの所属する部署はある。その主な役割は、街の商店街の活性化につながるイベントなどを支援することだ。鹿児島市を5つの地区に分け、5人の職員がそれぞれの地区にある商店街を担当。松下さんは中央駅地区の担当である。「新幹線の全線開業で観光客が増え、今、元気のある商店街がいくつも集まっています。気持ちが一丸となった商店街は強いですね」中央駅西口のゾウさんのはな通り会は歩行者天国の祭りを成功させ、東口の一番街商店街もスタンプラリーなどで来客を促す。もちろん他の地区も負けていない。宇宿商店街による小学生レスキュー大声コンテストの開催、草牟田通り会のちゃっぴー祭りなど、どの地区も知恵を出しあって魅力的な街づくりを行っている。

ゾウさんのはな通り会

時代のニーズ

現在、鹿児島市の商店街は登録数で117。そのうち活発に活動しているのは4分の1にすぎない。それは店主の高齢化や後継者不足が原因なのだろうか。「そういう面もありますが、通り会の会合などに同席すると、意見を集約することの難しさを痛感しますね。業種も違えば営業時間も違います。利害が一致しないことも多々あります。何十件もの店が一つの方向でまとまって動くのは非常に難しいと感じます」市場の競争原理があるので、一つの店を行政が支援することはない。行政が動くには地域全体の利益につながること、そして商店街の方々の意見の一致が大前提だ。それでも今、時代の流れに応じて、枠組み自体を見直す動きもある。たとえ全会一致でなくても、少人数のグループが街を盛り上げようと立ち上がるとき、もっと身近な形で行政がサポートする必要性を感じているという。「3店舗以上が集まって地元の人に商店の魅力をPRする事業プランを考えたんです。昨年はこのプランのもと、数団体の応募がありました。『お仕事体験in西田本通り』は、夏休み期間中、小学生親子に通り会の数店舗のお仕事を体験してもらい、お店と参加者の交流を図ったイベントとなりました」

市役所職員

主役は商売人

主な支援策はイベントへの補助金交付や講師派遣事業である。商店街の話し合いで決定したイベントに対し、行政が審査し、宣伝費や設営費など必要な経費の一部を補助金として交付する。また、市の予算から県内外の講師を招き、通り会の会員たちのために接遇指導やIT活用法などを講演してもらう。商店街全体の利益へとつなげていくのだ。「あくまで主役は商店街の方々です。イベント費用も、主体は商店街の会費で賄っています。専門の講師を招くにしても自分たちの商店街に何が一番必要なのか、お店側の視点が大切になります。活用例として、いづろの商店街では外国人観光客の接客を充実するために英語や中国語、歴史の専門家を招いて勉強会を開いています。趣味で中国語を学びたいでは支援の対象になりませんが(笑)」

経済の表側に

高校から大学を考えるときは関東や東京が楽しそうだくらいの感覚しかなかった。大学時代はのんびり過ごしてしまって、飲み仲間と遊んでばかりだったと自嘲気味に話す。就職もギターが好きという理由で東京の大手楽器店に入社したが、その頃は自分の人生を真剣に考え始めた葛藤の時期でもあった。一念発起し鹿児島に戻り、公務員試験の受験対策を独学でやった。合格後、入庁1年目に生活保護の担当課に配属。その窓口業務を務めた。3年半後市民税課へ。さらに5年後、今の部署へと異動。「役所なので異動は仕方ありません。それが仕事の難しさでもありおもしろさでもあります。私は3つの部署しか経験していませんが、仕事を通して市の行政、街の動きをいろいろな角度から見ることができます」現在所属する経済局は松下さんの経験したい部署の一つであったという。「以前所属していた税部門は、お金を納めてもらう側でした。この苦しい時代、今度は経済活動の表側に立ちたいと思ったんです。集めた税を上手に使って市の経済がうまく回る、そういうことを具体化するのが今の部署だと思いました」通り会の会合に参加しては会員の声に耳を傾ける松下さん。とっつきやすいその雰囲気は、役所にいながらも商店街の雰囲気と一番近いところにあった。

経済の表側に

取材 2012年6月 No.7 しごとびと