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県庁職員(土木技師)

身近な存在

木塲 弘行(こば ひろゆき)

" どの工事でもいえますが、
大前提として住民の理解が必要です "

「しごとびと」のアンケートで常に取材要望の強かった「公務員」。なかでも県庁や市役所職員の仕事を知りたいという声が強い。それは、高校生が仕事を具体的にイメージしにくいということでもある。今回、土木技師である木塲さんにお話を伺った。

身近な存在

私たちが生活する中で不可欠な公共の設備、つまり、インフラの整備というものがある。道路、河川、橋、港湾などの工事や維持といったものだ。公共性が強いため、県庁や市役所には土木関連の部署があり、そこに土木技師と呼ばれる人たちが働いている。公務員採用試験で土木系の試験を志願し合格すれば土木技師となる。木塲さんも地方中級試験に合格してその立場になった。「中学時代、高専に通う兄がいました。全寮制のため、たまにしか実家に戻ってきませんでしたが、その時に話してくれる学校の様子がとても魅力的に思えたんです。経済的な面でも授業料免除制度があって、それも大きな理由でした」5年課程の高専の土木工学科に進学。やがて将来の進路に二つの大きな選択肢がみえてきた。一つはゼネコンとよばれる大手土木関連企業への就職。もう一つは、土木技師となる道である。「この時も市役所に勤める兄と税務署の姉の存在が大きかったですね。公務員の仕事を身近に感じていたんです」高専を卒業後、3年次編入で長崎大学に進学。「大学ではコンクリートや鉄筋の継ぎ手を勉強しました。並行して公務員の筆記試験対策もしていました。実際、仕事を始めてからは、高専時代の勉強が大きく役立っています」

身近な存在

住民の声を聞く

最初の赴任地は川内土木事務所の道路維持係。県道沿いの側溝が溢れるとか、アスファルトの道路が波をうっているなど、住民の声に耳を傾けることから始まる仕事だ。「私たち県の土木技師が、問題となっている地点を測量し、図面を引くこともあれば、複雑で専門性の高いものは民間の測量事務所などに委託することもあります」同時進行で予算をとるための申請準備に入り、周辺住民へ工事の説明を行う。予算の目途がつけば、民間の土木会社を対象に競争入札が行われ、最も良い条件を提示した業者に仕事が発注されていく。「工事が始まると、予定通りに工事が進行しているかの施工管理が仕事となります」

キャリアを積む

鹿屋では道路の拡幅工事に携わり、熊毛支庁では港湾整備が主な仕事となった。種子島ロケット基地の資材の荷揚げ港である島間港。外海に面し波が高く、ときに安全性の問題があった。防波堤の建設ともなると数年から十年以上に及ぶ事業になる。「岸壁から海へ向けてケーソンと呼ばれるコンクリート製の箱をうかべ、それに砂をつめて沈め、さらに上部をコンクリートで固めていきます。その先に消波ブロック(テトラポッド等)をおき防波堤とする工事です」木塲さんはおもむろに簡単な図を書いて、私たち素人にも分かり易く説明を始める。聞き手の分からない部分を引き出すかのような優しい物腰だ。「どの工事でもいえますが、大前提として住民の理解が必要ですね。図面を広げながら関係住民の方々に説明していきます」島間港防波堤整備では十数名の住民に対し4回の地元説明会が行われ、漁協へは売り上げなどの補償も含め6回にわたり行われた。土木技師の魅力の一つに様々なビッグプロジェクトに参加できるという面はあるが、大きな責任も伴うのだ。その後、異動のタイミングで、鹿児島が都市緑化フェアの開催県となった。「おもしろそうと思ったんです。募集があったんで迷わず希望しました。会場整備から始まり、フラワーアートや体験花壇などのイベントを担当しました。ぐりぶーの着ぐるみにも入らせていただきました(笑)」

奉仕のさまざまな形

奉仕のさまざまな形

イベント後、現在勤務する県庁道路維持課に異動してからは、デスクワークが中心となる。「鹿児島県内43市町村から寄せられる市道や町道の改修工事の要望、川内や鹿屋など県の出先局からあがる要望、それらをいったん、ここでとりまとめます。補助事業に関しては、国の機関である九州地方整備局から予算を取り付けるための申請書類を作成していきます」県や市町村の工事であるため、工事の費用すべてが国からの補助金で賄(まかな)われることはほとんどない。そのため県や市の予算関連の部署との折衝も入念になされている。「公務員として県民の皆様に奉仕するという形はさまざまだと思います。傍目(はため)にはわかりづらい仕事ですが、今のようなデスクワークも一つの工事を完遂するための大事な役目だと感じています」県民に役に立つ仕事を正確に行う。そのために異種の現場をいくつも経験し、多くの住民と接し、さらには事務方を担い、土木に関して全体を見渡せる木塲さんのようなオールラウンドの人々が、公共のためになる工事をマネジメントしている。

取材 2011年11月 No.6 しごとびと