" 卒園式には、一人ひとりの成長をしみじみ思います。
最初は、お母さんと離れる時、泣いていたなぁとか "
「大きくなったら何になりたい?」その問いかけに、きまって女の子たちは答える。「お花屋さん、ケーキ屋さん、幼稚園の先生」八牟禮さんも一番に「保母さん!」と答えていた。「看護婦さんにも憧れたけど、注射が怖くて(笑)。だからやっぱり保母さんがいいって決めてました」気さくな笑顔で話してくださった。
そんな幼い日から月日は流れ、小学6年生の時、担任の先生との出会いによって、将来の夢は現実味を帯び、保母さんから小学校の先生へとかわる。「母の影響で、中学の頃から海外文通を始めました。英語が好きで、受験も英語が活かせる鹿児島大学教育学部の英語専修を選びました。でも英語の先生というより、小学校の先生が目標だったんです。それに、大学に入ってみると、得意だったはずの英語もそうじゃなくなっていました。周りに留学経験者も多い中で、私は英語が話せなくて(笑)。大学時代の思い出はやはり教育実習ですね。きつかったけれど、楽しかったです。幼稚園、小学校、中学校などの実習に行き、免許も全て取りました」
幼稚園の先生、一年生。
狭き門の教員採用試験。八牟禮さんは合格できなかった。「進路に迷っていたとき偶然、幼稚園教諭募集を知りました。幼稚園の楽しかった実習がすぐに頭をよぎったんです。もともと小さい子どもが好きだったし、チャンスかなと」採用試験は、論文、ピアノ、幼児体操。何とかクリアして、晴れて幼稚園教諭となる。
一年目は年中組二十六名の担任。幼稚園での一日は、登園する子どもを迎えることから始まる。自発的な遊びの時間や、季節に応じた遊びの時間、昼食やお帰りの会など、教育課程をもとに、『週案』を作り、計画的、継続的に遊びを通した保育を行う。子どもの降園後は次の日の遊びの準備など先生の仕事は続く。さらに、一年目の先生は初めての行事ごとに、先輩の先生からきめ細かな指導をいただく。保育室の環境をどのように整え、どの時間にどんな話をし、戸惑う子どもにはどんな援助をしていくか。「一年目は指導通りやるのが精一杯でした。ただ、指遊び一つできない私にとって二人の同期の存在は大きかったです。一人は短大卒の二歳年下でしたが、幼稚園教育に関わる勉強を厚く学んでいました。いろんな種類の遊びも教えてもらいました。もう一人は二歳年上の方でしたが、経験が豊富で精神的にも支えてくれました。そして先輩方には、保護者との接し方、敬語の使い方、作業している人がいたら率先して手伝うことなどを教えていただき、社会人として大事なことを身につけることができました。」
遊びを通して成長して欲しい
「私たちの幼稚園は、遊びを基本に置いています。子どもたちが楽しいと思える遊びの環境を作るように工夫しています」子どもたちは、遊びを通して成長していく。遊びの中で友だちと関わり、喧嘩や仲直りを経験することで友だちとの関係を築き社会性を身につけていく。年齢や個人差で、楽しいと感じることは違う。年少組では、ブロックを繰り返しつなげて遊ぶ。年中組になると、それを武器と見立てて表現の道具とする。年長組になると、ロボットのような立体的なものを、友達と協力し合って作れるようになる。「一人ひとりの顔を思い浮かべながら遊びの準備をするんですよ。やっぱり、子どもはたくさん遊んでくれて、話が上手で、楽しそうな先生が好きなんですよ」ある日、八牟禮さんは子ども達に聞いてみた。「『先生と結婚したい人、手をあげて!』男の子たちは『えーっ、先生、その頃には、おばさんになってるよー』そんな会話の後、男の子が粘土でこっそりと指輪を作ってくれていたんですよ。その様子がとっても可愛いかったです」子どもと先生とのひとコマに、あたたかい気持ちにさせられた。
肯定的に見ていきたい
やんちゃな子ども、おっとりとした子ども。同じ年齢でも、発達段階も性格も違う子どもたち。指導していくのは大変なのではないだろうか。「すべての子どもを肯定的に見るんです。その子なりの成長を見守ります。保護者にも園での様子を伝えて子どもの成長を認めてもらい、自信につなげてほしいと思っています。リズム体操の時、恥ずかしさから動かず見ていた子どもが、発表会で舞台に立てるまで成長した姿などを見ると、幼稚園の先生になってよかったと思います。安全のために常に気を張っていますし、体力勝負の仕事ですが、子どもの笑顔を見ると元気がでてくるんです」幼稚園の先生になって九年。卒園児たちの通う小学校の運動会にも足を運ぶ八牟禮さんは、今までに担任した子どもたち全員に年賀状を送り続けている。今年はおよそ百六十枚。先生と子どもの絆をうかがい知ることができる。「子どもたちには、諦めずに挑戦する気持ちを持った大人に成長してほしいですね」保母さんに憧れていた小さな女の子は、幼稚園の先生となって夢を叶えた。そして時を越えて、今度は小さな女の子たちに夢を与えているのが八牟禮さんなのだ。
取材 2011年9月 No.5 しごとびと