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外科医

人の役に立ちたい

松田 圭央(まつだ かおう)

"何か手に職を持ちたい、
人から「ありがとう」といわれる仕事がしたい―――
それが私の原点です。"

「急患のオペ(手術)が入りましたので申し訳ありませんが、しばらくお待ちくださいね」松田さんは、取材で訪れた私たちにそう告げると、足早に院内の救命救急センターに向った。いつ何時、どんな患者が運び込まれるかわからないハードな仕事…。私たちは緊張感に包まれた。だが2時間ほど過ぎてひと仕事終えた松田さんは、ごくリラックスした表情で外科医の仕事について話してくださった。

外科医には自分で診療所を営む「開業医」と、病院に勤める「勤務医」などがある。松田さんに熊本赤十字病院の救命救急センターの外科医として働きはじめて6年になる救急救命の外科医という仕事に携わってみて、現在の率直な感想を聞いてみた。「思ったより到達点は遠いですね」と、松田さん。患者さんは一人として同じ人はいない。病状にしても性格にしても十人十色だ。どう治療するか、どうコミニケーションをとったらよいか、いつも一人ひとり向き合い方を考え、対応していくことが大切になってくる。「そこがこの仕事のおもしろいところでもあり、なかなか到達したと思えない、難しいところでもありますね」と語った。

結果がそのまま命につながる仕事だから。

人の役に立ちたい、その手段として医師という仕事があった。

松田さんが医師になろうと考えたのは高校生のとき。「何か手に職を持ちたい」そして「できれば人から"ありがとう"といわれる仕事がしたい」と考えた。その自分の志(こころざし)を実現する手段として思い浮かんだのが「医師」という仕事だった。幼い頃から医師として働く父の姿を見てきたことも影響している。「でも高校時代は、バレーボール部一色の生活。勉強への熱は今ひとつでしたね」と松田さん。友人と語り合う時間もあり、じっくり勉強できた「花の予備校時代(笑)」と松田さんがいう1年の浪人生活を経て鹿児島大学医学部に合格し、医師としての歩みが始まった。

結果がそのまま命につながる仕事だから。

わずかなミスが死に直結する―――外科医という仕事にはそんな厳しいイメージがつきまとうのではないだろうか。常に生死がかかった仕事というものがどういうものなのか、私たちにはなかなか想像できない。命というプレッシャーの連続の中で疲れたり、嫌気がさしたりすることはないのだろうか。「責任の重さやプレッシャーを感じることは確かにあります。でも今はそれ以上に、自分を頼ってくれる人がいて、それに応えられる技術をもっているということがうれしいし、患者さんに感謝されることが、自分を次の手術に向かわせています」と松田さん。患者さんのうれしそうな姿やありがとうの言葉で、松田さん自身がもっと勇気づけられたり、仕事のモチベーションが高まっていく。だが、それと同時に、ああしたらよかった、こうしたらよかったという「足りない感」も湧き出てくるという。「だから、まだまだ、ここでやめられないんです」と松田さんは、にこやかに語る。

"外科はチームで動いている。回りのスタッフに、
家族のように支えられていると感じます。"

忙しさもプレッシャーも、体や心に馴染んで

外科医とは「手術」という方法でダイナミックに病気を治していく仕事。だから手術の結果は、外科医の個人的な技術、経験、精神力に大きく左右されると思いがちだ。しかし松田さんによると、個人の技量はもちろんだが、外科治療はチームワークのうえに成り立っているという。1回の手術には、外科医のほか麻酔医や技師、看護師など、さまざまなスタッフが携わる。そのスタッフのチームワークがとれてこそ、手術の威力が十分に発揮されるのだ。「回りのスタッフに、家族のように支えられているなあ、と感じます」という松田さんの言葉に実感がこもる。

ハードな毎日を過ごしているにももかかわらず、自然体でつねに穏やかな表情や語り口をくずさない松田さん。多忙さやプレッシャーすらも、体や心に馴染んでいるようにみえる。
  
人からありがとうといわれる仕事がしたい―――医師という職業を選んだときの、しっかりとした原点が、ブレることのない松田さんの"今"を支えているに違いない。