"アートによって日常生活を豊かに彩る。
その架け橋になるのが私の仕事"
鹿児島市役所みなと大通り別館1階にある『かごしま文化情報センター』。訪ねてみると、最初に一枚の写真が目に飛び込んできた。空と朱色のコントラスト。オーストラリア出身の外国人アーティストが撮ったものだという。
彼の名はリチャードバイヤーズ。東北の震災のあと、石巻市が招いたアーティストである。彼は、地元の伝統芸能が、人をよび戻し町を元気づける様を取材し、映像に残していた。旅先の鹿児島でリチャードは四元さんと出会う。地方文化のもつ力に共感しあい意気投合。やがて鹿児島市郊外、花尾神社の祭りをリチャードはファインダー越しに覗いていた。地方の伝統行事に新しい美が見いだされていく。彼をそこに結びつけたのは四元さんだ。
撮影:リチャード・バイヤーズ 電子書籍「人、祭、花尾神社」より(2013年)かごしま文化情報センター
劣等感たっぷりの大学生。
中・高時代、写真にのめりこんだ。フィルムを現像していた時代。部室の一角は暗幕で覆われていた。「現像液のちょっとお酢っぽい匂いの中で少しずつ絵柄が浮かび上がってくるのが楽しかったですね」子どもの時から漠然と教師に憧れていたという四元さん。高1の時、担任の英語の先生との出会いがその想いを決定づけた。理系科目は苦手だったが、英語は俄然頑張った。大学進学に際しては英語以外の言語にも興味が動いた。姉の助言もあり、語学で有名な大学のフランス文学科を選択した。「テキストはすべてフランス語。授業もずっとフランス語でした。もう予習がたいへんで…。まわりは帰国子女や高校時代に第2外国語でフランス語を習っている子もいっぱいいて、劣等感たっぷりの1年生でしたね(笑)」在学中に1年のフランス留学を経て、英語教師を目指し出身高校での教育実習にのぞんだ。「同期の実習生の中に抜群に教え方の上手い人がいて、そしてもう一人、実習先で、OLを経験してから先生になられた方と出会って、自分も会社に勤めてから教師になる道もあるかなと思うようになりました。自信がなくって、そんなふうに考えたのかもしれません(笑)」
秘めた魅力を伝えたい
そんなとき友人から、ある企業の求人を聞いた。広報PRの部署でフランス語を話せるのが条件。『文化を事業化する』をスローガンにした会社だった。「美術館で展示されるような作品って、何となく敷居が高いなと感じる人は多いと思います。その会社は、もっとアートを身近に感じる機会を提供しようとしていました。無名の作家さんの作品でも、見る人がハッとしたり、豊かな気持ちになったりする作品やパフォーマンスがあります。そんな作家さんを発掘し紹介することを企画していました。私が担当した広報PRは、作家さんと会って、その人を理解し、魅力を整理して、多くの人に伝わる言葉にかえる仕事。だから相手の話を聞き、異なる考えを理解することが大切でした」
言葉を道具にして働く
とくに芸術に関心があったわけではない。しかし、魅力的なアーティストとの出会いを通じて仕事に引き込まれていった。5年が経ち、一つの転機が訪れる。フランス大使館の推薦をうけ、アートマネジメントを学ぶ公費留学生として再び渡仏する機会がめぐって来た。「会社はチャンスを生かしなさいと背中を押してくれました。結果的には予定より滞在が延び、退職する形になりましたが」滞在の延期は、フランスの国立アートセンターから声がかかったからだ。スペイン人によるアートパフォーマンスや京都出身の映像アーティストのイベントに携わった。「広報のスキルがあったのでイベントの裏方ができたんです。作家さんへの出演交渉、資料作り、渡航の手配など、私の場合、フランス語と英語と日本語を使って作家さんと現場のスタッフをつなぎました」
文化の力を信じて
帰国後しばらくして山口市の情報芸術センターに招かれ、4年半、制作(コーディネーション)を務めた。そして昨年、鹿児島市がその文化レベル向上のために設立した『かごしま文化情報センター』の発足に伴い、そのチーフに迎えられる。「やっぱり鹿児島がいいですね。長い旅をして、生まれた川に戻ってきた魚みたい(笑)」
今年11月、『親子がふれあえるワークショップスタイル』をコンセプトに曽谷朝絵さんを招いた。光と切り絵を楽しむ曽谷さんのアート作品。子どもたちと街のショーウィンドウに光の森を出現させた。イベント当日、曽谷さんのそばでサポート役に徹する四元さん。この日を迎えるまでに関係者たちとの調整がどれほどあったのだろうか。子どもたちに向ける笑顔からは、人をすぐに好きになり、そして人から頼られる雰囲気が伝わってくる。そんな人柄が語学や広報のスキル以上に仕事の縁をつないできたものかもしれない。彼女は言う。「アーティストって『こうありたい』とピュアな思いをつきつめるものです。社会や人間の本質をえぐりだします。彼らの間に立つ私たち自身も、何のために何がしたいのかを見失わないようにしたいです」彼女は文化の力を信じて歩みを進める。
取材 2013年11月 No.13 しごとびと