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FMさつませんだい局長

目の前の課題を楽しむ

上栫 祐典(うわがき ゆうすけ)

 "全ての経験は、何かの意味を持ち、
将来につながっていくんです "

今年3月、薩摩川内市に新たなラジオ局が生まれた。鹿児島で10番目となるコミュニティ放送局『FMさつませんだい』。昨年夏から開局に向けて準備を進めてきた上栫祐典さんに、コミュニティ放送にかける思いを伺った。

始まりは7年前

大学を卒業後、東京の広告代理店に就職。刺激的で充実した日々を送っていた。しかし、大学時代から心に決めていたことがあった。『いつか起業しよう』。その思いは強くなり、2005年、鹿児島に戻ることを決意。地元で会社を設立し、広告制作やイベント運営を手がけ始めた。同時に、インターネット回線を使ったラジオ放送を始める。「小さい頃からラジオが好きでしたし、続けるうちに10人、20人と聞いてくれる人が増えていきました。リスナーとのやり取りを通してあらためてラジオの可能性を感じましたね」。上栫さんは動いた。当時、苦戦を強いられていたコミュニティラジオの中にあって、経営的にも番組の質的にもひときわ抜きん出ている放送局があった。山口県宇部市の『FMきらら』。その代表・井上さんに会って話を聞きたい。「訪ねていくと、その場で『今、放送中の番組があるんだけど、そこで話をしようか』と井上さんに誘われたんです。これだ、この近さだ!と思いましたね」しかし、当時はまだ26歳。資金もない。人脈もない。ラジオ局設立の計画は一時棚上げとなった。

新しい領域へのチャレンジ

上栫さんが磨いてきたスキルは企画力。その力はやがてコミュニティと結びつくことになる。まちづくりを担う新たな会社として薩摩川内市も出資した『まちづくり会社』。2008年、その企画部門担当の職員として地域活性化の仕事を手がけるようになった。仕事の幅が広がっていく。鹿児島で初めての試みである、街をあげての出会いの場『街コン』も成功させた。『まちづくり会社』の方針は大きく2つ。1つは、「地元の会社の競争相手にならないこと」。そしてもう1つが「地域の会社を後押しできる取組みであること」。飲食業も、通信業も、広告業も、あらゆる企業が既に地元にはある。それらと重ならない分野で、新たに地域を盛り上げるためにできることはないか。浮かんできたのはコミュニティ放送局。市町村エリアのコミュケーションを促進できるはずだ。一度は挫折していたラジオ局開設の計画が具体化し、2012年、急ピッチでの開局準備が始まった。

新しい領域へのチャレンジ

その土地で生まれ育ったからこそ

アンテナ、その設置費用、機材などなど設備投資には大きなお金がかかる。事業計画をたずさえ、ビジョンを語り、資金面の準備も進めた。同時にスタッフを募集。こだわったのは、地元出身であること。「この薩摩川内で生まれ育ったからこそ、できる話があると思うんです。地名が読めるとか、あの道は混みやすいとか。個性の強いタレントでも、しゃべりのうまいDJでもなく、あくまでリスナーと同じ市民であるという目線を大事にしたいですね。市内のパン屋さんが、ラジオに報告してくれるんです。おいしいパンが焼けたよって(笑)」ラジオは今、朝7時から夜9時まで放送している。そのすべてが自主制作された番組、そのすべてが生放送である。印象に残る企画を尋ねると、ある中学校の生徒会の番組で、卒業式に合わせ卒業生に向けたメッセージを生放送したものだ。生徒会の限られた予算の中から、番組制作を依頼してくれたという。

目の前の課題を楽しむ

開局までに7年の歳月をかけた上栫さんだが、焦りや苦しみは特に感じなかったという。「その時々に、目の前の課題を楽しみながら解決しようとしてきた結果、いつの間にかいろんなご縁がつながって、ラジオ局が出来ていました」と笑う。これから社会に出て行く皆さんへのメッセージをお願いすると「結果をすぐに求めないことが大事」との答えが返ってきた。「今、目の前のことが人生の全てではないということです。たとえ回り道しても、結果としてそれが生きてくることもある。悲観的にならず、いろんなことに好奇心をもって進めば、きっと自分の望む道がひらけてきます」

目の前の課題を楽しむ

取材 2013年6月 No.11 しごとびと