動物のためにどの飼育員も一生懸命です。
それでも突然来る別れ… また新しく誕生する命…。
動物ってスゴイ! 命ってスゴイ!
小学生の頃、ワクワクしながらあの平川動物公園の門をくぐった記憶は残っているだろうか。大人になるにつれ動物園とは疎遠になりがちだが、きっと自分たちの子どもを連れて戻ってくる場所だ。平成21年度より園内は順次リニューアルされ、来園者には動物園全体が明るく、見やすくなり、そして何より動物たちにとって暮らしやすい配慮がなされている。
直接飼育・間接飼育
動物園をしばらく進むと、右手に元気なサルたちが見えてきた。仕切られたスペースにマンドリル、ニホンザル、キツネザルなど12種。このサルたちの担当が峯下さんだ。動物たちには来園者から見える展示スペースと、就寝用のスペースの2つの部屋がある。飼育員が清掃したり餌をおいたりするときは、片方のスペースにサルを移動させてから行う間接飼育をとる。直接触れ合って世話をしない、クマやライオンと同様の飼育法だ。人間への危険度が基準となる。サル舎を過ぎ、右手の坂を登ると、レッサーパンダが暖かそうな毛にくるまれた愛くるしい姿をみせた。以前、直立だちするレッサーパンダで一世を風靡した千葉市動物公園の風太。その娘、風美の家族だ。風美の子どものキラとソラに、峯下さんはリンゴを切って手渡しする。直接飼育のレッサーパンダはさすがに彼に慣れている。「利き手があってキラは右利きで、ソラは左利きです。直立で話題になりましたけど、レッサーパンダの足の骨格からすれば自然なことなんですよ」。2頭を撫でながら来園者へ語りかける。
主役はもちろん動物たち
さらに坂をのぼっていくと、何種類ものツルがいた。世界全15種のうち10種ものツルがいる動物園は珍しいという。峯下さんの担当はサル、レッサーパンダ、そしてツル。「朝一番に動物観察から始まります。けがなど異常はないかをチェックします。異常がある場合は獣医と相談し治療の準備にかかります」。お昼には園長も交えて飼育員全員でミーティングが開かれる。動物の様子など、情報を共有し合う場だ。餌やり、清掃などのルーチンワークに加え、イベントの企画・準備も重要な仕事だ。3月8日から始まる『春の動物公園まつり』では多くの体験イベントを企画。毎月第4日曜には『飼育係のお話』のコーナーで、旬な話題を提供している。「イベントの演出は私たちの仕事ですが、動物たちが生き生きしていないと始まりません。彼らが主役ですから。季節を変えて、そして時間帯を変えて来園されると動物たちの変化を実感できるんですよ。飼育員を見かけたらぜひ声をかけてくださいね。ここのスタッフはみんな気さくでいろんな話が聞けると思います」
最終的には、
動物たちが野生で生きていける環境を
守る方向へと導く存在となるのが動物園の使命だ
と思います。
種の保存と研究の場
現在、絶滅の恐れのある野生動物を捕獲し売買することはワシントン条約や多くの法令で禁止されている。したがって動物園は種の保存の役割を担い、国内外の動物園と協力し、希少種の繁殖飼育を行っている。全国の動物園が繁殖のため、一定期間動物の貸し借りをするブリーディングローンという制度がある。レッサーパンダの風美もこの制度を利用して他園から移動してきた。また、檻という限られた空間でどうやって動物たちが幸せに暮らせるかという『環境エンリッチメント』というテーマのもと、野生の動きができるしかけや、野生の状態に近い食べ物にする工夫を怠らない。「ここは大学生や専門学校生の実習先になっていますし、鹿児島大学の学生や先生とサルの行動調査も行っています。このつながりで昨年は京都大学の屋久ザルの調査に同行させてもらいました」
15年目にして念願の動物園へ
仕事での苦労はないと答えた峯下さん。「肉体的なしんどさは苦労ではなくやりがいですし、世話をしていた動物の死は悲しいの一言につきます。ここで産まれた赤ちゃんが元気に育って転園し、そこでまた元気な赤ちゃんを産んだ知らせを聞くのが嬉しいときです」。逆に、他の動物園からきたサルが、前からいたサルたちとどうすればうまくいくか心配でしようがなかったそうだ。ふと、思い出したかのように、「そういえば、ここでの1年目、テレビ局の取材が入ることになったんです。サルの特集を組むらしく、番組では私が話をすることになって。経験は少なかったですが、それでもプロはプロなので引き受けました。一気に猛勉強しました。しいて苦労といえばそれですね(笑)」。平成24年度から平川動物公園の飼育業務は、市から鹿児島市公園公社へ委託され、市役所職員である飼育員は、公園公社が新たに採用する動物園スタッフと入れ替わっている。峯下さんも異動の対象だ。税務署員だった祖父の影響で、公務員という働き方を意識した高校時代。動物園での仕事を夢見て、技能労務職の試験を受け鹿児島市役所に入局。その後15年目にして念願の平川動物公園へ赴任となった。そして今年で4年目。気の合う同僚たち、そして手のかかる大好きな動物たちと同じ屋根の下で過ごす日々。この貴重な経験を後から来る人たちへ、今つないでいこうとしている。
取材 2015年2月