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投資家

お金に働いてもらう

野添 勇作(のぞえ ゆうさく)

自分で調べ考え抜いた結論が
『明日雪が降る』なら、
真夏でもコートを持って外出しなければならない。
これが本当に難しい。

買った株が値上がりすれば儲かるくらいはイメージできる。円ドル相場となると何が何やらさっぱりの世界。野添さんは自分のお金を運用して生活する投資家。
さらには、自らの政治経済情勢の分析と知識が評価され、東京やロンドンの銀行や証券会社がそれを買うようになった。
「自分のために占いの勉強をしていたら、私も見てほしいと客がついた占い師」と自らを語る。

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八千万円貯めれば

新入社員の頃の話だ。サラリーマンの平均年収は当時、税など引かれて4百万円くらい。どのくらいの貯金があれば、その利息で年間4百万円になるんだろう。当時の国債などの利率が4~5%。8千万円の貯金があればその利息で人並みの生活ができるなと思うようになった。「昔から『いくつまで生きられるか』の問いに、自分の中で77歳と決めていました(笑)。一に健康、二に時間、三、四がなくて五にお金。社会に出て、上司や定年を迎える人々をみると、この三つが揃うのは5年間くらいしかないんじゃないか・・・。若いうちは金がない。仕事を頑張っているときは時間がない。時間とお金に余裕ができた頃には健康がない。三つのうちで妥協できるのは金しかない。寝たきりじゃ何もできないし、時間がなくても何もできない。じゃあ、際限のないお金の欲に見切りをつけるしかないと思ったんです。とにかく8千万円まで貯めればお金から解放される」。

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投資家になるきっかけはここにあった

22歳の初任者研修。各部署を見学し、希望を聞かれた。「運用課以外ならどこでもいいです」。その部署はモニター越しに何かをやっていて暗い印象があった。しかし配属されたのは運用課。実際仕事を始めると印象とは全然違う世界だった。鹿児島にいながら、刻一刻と変わる為替相場や世界の株式市場とにらみ合う。「鹿児島という地理的ハンデがそこだけにはなかったんです」。会社が預かる200億円の運用に取り掛かった。投資先を調べ、相場を読む日々が続く。2年後には1000億円の運用を任されていた。しかし、利益は会社の利益。個人として8千万までの道のりは遠かった。

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どう動けば勝算はあるのか

自分の価値を一番高くで買ってくれるのはどこか。その答えは外資系の証券会社だった。「日本は終身雇用で身分を守られている分、それを捨てて年俸制の欧米企業にチャレンジする日本人はそれだけで価値があったんです」。タイミングよく、自分の仕事ぶりを知る外資系企業から誘いがあった。そこでは入社後半年で実績を残さねばクビだ。しかし「命までは取られまい。最悪半年後に無職になるだけ」と腹をくくった。何より自分が評価されたことがうれしかった。年俸1千2百万、ボーナス8百万の好条件。しかし、息子の挑戦を無謀と考えた父親が先方に働きかけ、契約を阻んだ。5年間もの親子断絶を生む大喧嘩。自身はかたくなに別の外資系企業に転職を果たす。入社時に上司から受けた指示は『君の席はここ、電話はコレ、じゃ、頑張って』のみ。営業スタイル、出張、休暇などすべてが自由だった。当然、結果が出なければ即クビ。同僚に最後の挨拶をする時間も与えられない。まさに、放し飼いの天国と地獄を味わいつつ、描いていた人生設計の元手を得た。

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お金に働いてもらう

投資家と同じように、みんなも投資している。その最大の投資は就職だと語る野添さん。「人生最大の時間をつぎこみ、倒産や健康を害するリスクも抱えながら、給料というリターンを得ます」。車や家など大きな買い物をするとき大半の人が下調べをするが、就職先を入念に調べる人は少ない。いや、下調べが難しいと言った方が正しい。本人のやりがいや夢を別にすると、有名で安定した会社や成長しそうな業界といったイメージで就職先を決める。投資家はその下調べが難しいものを調べ上げ考え抜く。人の心理を読み、欲求の向く先を考える。「今後こんな仕事は必要とされるな、こんな業種は時代に合うな、そんな会社にお金をつぎこみ、そして、お金に働いてもらうんです。出資したお金は労働力と同じように会社に貢献できるんです」。会社が成長すれば今100万円の株が10年後200万になっていてもおかしくはない。大学進学も就職も身近で楽に思える選択をしてきた。普通の人の勝負どころで勝負をしなかった。その肩から力の抜けた余裕と眼力は日ごと力を増していった。投資には常にギャンブル的要素があるように見えるが、調べ考えるからこそ、勝ち目と危険度を把握できる。危険度が把握できれば裏目に出たときの撤退(損切り)が容易だと言う。しかし、それだけで投資がうまくいくことはない。自分が調べ考えた通りに行動する鉄の意志が一番重要だ。自身、まわりに左右され痛い目に遭ってきた。「この世界は変人だらけですよ。自分もその一人」だと自嘲気味に話すが、それは表面的なものの見方や常識に囚われない人ほどお金という難しいものを扱えることの裏返しなのかもしれない。

 

取材:2015年8月