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社会福祉士

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坂上 陽一(さかうえ よういち)

1977年生まれ 鹿児島市出身。
吉野中、鹿児島高校、長崎ウエスレヤン短大卒業後、鹿児島国際大学社会福祉学部に3年次編入。平成13年社会福祉士の国家資格を取得後、肝属郡医師会立病院入職。
現在、同病院の地域医療室長を務める。

人とパッと話ができて、
憎まれ口にもめげない、打たれ強いタイプが、
この仕事には向いていると思います。


社会福祉士という職業を知っている高校生はどれくらいいるだろうか。いま医療界で注目の職業だが、みなさんが生まれた頃にはまだ認知度は低く、社会もその潜在的なニーズに気づかずにいた。そんな時代にこの職業を選んだ坂上さんを訪ねに大隅半島に渡った。

 

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国のモデル事業に手をあげた

近頃『入院している親戚が別の病院へ転院をすすめられている』というような話を何度か耳にした。何かの都合でそうなっていると漠然と思っていたが、坂上さんの話を聞くうちにその背景がみえてきた。「以前であれば患者は急性期で1ヶ月、慢性期だと半年は入院することが出来ました。でも今はそれぞれ半分の期間で退院や転院を勧められています」。高齢化に伴い、国は増え続ける医療費の支出を抑えるため、長期の入院が病院の利益になりにくくする施策をとりはじめたのだ。とはいっても、退院後に家族が病院と同じような看護体制を自宅でできるかという問題がある。そこで在宅での介護を充実させ、地域ぐるみで高齢者を支援する体制づくりに国が動き出した。「4年前、厚労省の在宅医療連携拠点モデル事業の公募に私たちの病院は真っ先に手を上げました。病院がカバーしている地域は県内で最も高齢過疎が進んでいる錦江町と南大隅町です。入院患者の受け皿となる病院もここしかなく、在宅医療や介護連携が強く求められていました。モデル事業に名乗りを挙げる時点で、国が目指すケアシステムを形にできる自信がありました」。

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坂上さん、動く

医療に関わる大半の業務を医師と看護師がしていた時代があった。その後、分業化が進み、入院中に介護保険の申請手続き等を行うことで退院後の生活にスムーズに移れるようにする社会福祉士の仕事も生まれた。しかし、在宅医療が推進され始め、あらゆる職種をコーディネートすることが社会福祉士の新たなミッションと感じた坂上さん。モデル事業の開始にあたり課題の抽出にのぞんだ。ケアマネージャーからは、『かかりつけ医がどのような症例に対して訪問診療できるかの情報が欲しい』。かかりつけ医からは『訪問看護ステーションがどのような体制であるか情報が欲しい』。町役場からも薬剤師からも声が集まった。

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限られた人材を動かし、仕事をつくる

坂上さんは各職種からあがる意見に目をそらさずに受けとめていく。同時に医師会病院ならできる確信をもった。「そもそも医師会病院は開業医のために作られたものです。地域の開業医からの紹介をうけ、手術や高度医療を施し、退院して外来通院ができるようになると開業医のもとへ患者さんをもどします。つまり、ギブ&テイクの関係がすでに成り立っていました。私の立場なら、この地域の開業医の人柄も、連絡して大丈夫な時間帯も知っています。在宅医療の要となる訪問診療も医師からの協力を頂けると思いました」。訪問看護を充実させようとすれば、より多くの職種の人間が関わる。その連携に奔走する日々が続いた。情報の共有、そして意見のすり合わせ。定期的に関係者全員の語りの場が必要と感じれば日程の調整をつけた。「関係者が一堂に会する運動会もコーディネートしました。乗り気じゃない人にも出し物に工夫を凝らして何とか参加してもらえました。とにかくチームワークが良くなればいいんです」。

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祖父の遺志を継いで

小、中学校は野球に明け暮れ、高校では陸上部に所属し槍投げに没頭した。一方、仕事との出会いも中高時代に訪れていた。「福岡県は糸島郡で医師会長をしていた祖父が医師会立の病院の設立に立ち上がりました。それは医療資源の乏しい過疎地域で医療の充実を図るという国内でも先駆的試みでしたが、建設途中で他界してしまいました。そんな祖父の遺志を継ぐために就職先は医師会立病院しかないと勝手に決めていました」。同じく医師だった叔父からも助言をもらった。いくつもの大きな病院に勤めた経験から今後は社会福祉士という職業が有望だということを高校生のときに知った。大学を出て国家試験に合格。やりたい仕事はあくまで亡き祖父のやり遂げたかった地域医療に携わることだった。縁はつながり、郡部の医師会病院への入職が叶う。今ではマスコミも在宅医療・介護連携の先駆的存在として坂上さんの取材に訪れ、他県の医療機関からの視察団や医療に従事したい大学生たちも研修に訪れる。その対応に忙しい日々は続くが、若き日に抱いた仕事への理想は14年経った今も少しも色褪せない。

 

取材:2016年9月