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飲食店経営

海外に憧れて。

大重 龍三(おおしげ りゅうぞう)

"明治維新のうねりが起きた鹿児島の地で
カレー維新を起こして、郷土を元気にしたい!"

昭和61年創業のカレーテリア沙羅(さら)は、鹿児島における本格インド料理の草分け的存在だ。平成23年には店舗を天文館から郡山町に移転。緑豊かな田園地帯に建つ古民家で、「薩摩藩古民家カレーテリア沙羅」として、料理とともにくつろぎのひと時を提供している。

海外に憧れて。

沙羅のオーナーシェフ大重龍三さんは、最初からインド料理屋さんを目指していたわけではない。「僕たちが若い頃は、外国と言ったらアメリカ。少年時代から、世界の中心はアメリカ、将来はアメリカに住んでアメリカで自分の力が通用するか試したいと思っていたんです」。海外へ行き来する仕事に就いたら、アメリカでのビジネスチャンスがつかめるかもしれない、との思いで、大学時代にはアルバイトで海外旅行の添乗員として経験も積み、卒業後はそのまま旅行会社に勤務し、東京支店の所長も務めた。
いろいろな事情で一度鹿児島へ帰郷した方がいいと判断し、とりあえずアメリカでの起業は断念することにした。「でも35歳で起業すると決めていたから」帰郷後、インド料理店をひらくことに決めた。そのきっかけは、旅行会社時代に知り合ったインド人の影響だったという。

鹿児島緑茶緑カレー

鹿児島とカレーの深い縁。

天文館地区に店を開いたのが昭和61年。鹿児島には本格的インド料理店がほかにない時代だった。お店を開くまで料理の経験がなかったが、インド人から教わったレシピをもとに試行錯誤を繰り返し、メニューを充実させてきた。とくに近年、地元の食材にこだわったオリジナル商品の開発にも力を入れ、鹿児島発のオリジナリティあふれるカレーを世に出してきた。黒豚、黒酢、竹炭等を使った「鹿児島黒豚黒カレー」、赤鶏と赤ジソ等を使った「鹿児島赤鶏赤カレー」、緑茶、ソラマメ等を使った「鹿児島緑茶緑カレー」の彩り豊かな三部作は、大重さん自慢の地産商品だ。鹿児島黒豚黒カレーは2005年かごしま新特産品コンクール理事長を受賞。今年(平成26年)は「第10回魅力ある日本のおみやげコンテスト」に出品、特別賞を受賞した。
大重さんは、次なる目標として、鹿児島発「カレー維新」を掲げている。「2018年は明治維新150年。2015年には第30回国民文化祭が鹿児島で開かれます。この機に、鹿児島でカレーフェスタを開きたいんです」。全国のご当地カレーが一堂に会するイベントを開くべく、さまざまな人を巻き込んで奔走中だ。「明治時代、海軍は健康食としてカレーライスを推奨していました。海軍の総大将東郷平八郎は鹿児島の人。だから、カレーと鹿児島はまんざら縁がないわけではないと思うんです。面白いイベントを仕掛けて鹿児島を元気にできたらいいと思って!」。大重さんの瞼には、イベントで活気づく街の様子が既に映っているようだ。

薩摩藩 古民家カレーテリア沙羅

視野を広げて!

若い頃から海外を飛び回ってきた大重さんは、お店を経営する傍ら、国際交流活動にも力を入れてきた。開店当初から、鹿児島在住の留学生と日本人の交流会を定期的に開いてきたほか、2002年にはNPO法人 国際理解プログラム研究会を立ち上げた。留学生を伴って県内各地の幼稚園・保育園、小中高校を訪れ、楽器演奏や民族衣装体験、カレーを通じた食育など五感を通じ、お互いに交流する機会を提供している。「若いうちに外国人とふれあう体験をすることが大切」という熱い思いを胸に、年間60回ほどのスケジュールをこなす。さらに、大重さんの発案がきっかけになり、平成26年6月には郡山地区に国際クラブも発足した。毎月、公民館に留学生を招き、地区の子どもたちと定期的に交流を重ねている。「イベントで時々ふれあうだけでなく、外国人や異文化に慣れ親しむ交流の場数を多く体験させることが大事と考え、将来的にはこの活動を県内全域に広げていきたいです」。
長年、食を通じての国際交流体験を行ってきた大重さんは、日本のおかあさん方に伝えたいことがあるという。
「いま日本では賞味期限など、衛生管理がとてもきびしくなっています。大切なことだけど、それは子どもたちのためを思ってというより、問題が起きた時に責任を逃れたいから、というきらいがあります。世界の中では、衛生管理など行き届いているのは、日本をはじめとする少数の国々。少々衛生環境が悪くてもエネルギッシュに食べ、学び、働く留学生を見ていると、行き過ぎた衛生管理の中で育つ日本の子どもたちは、これからのグローバル化のなかで、外国人に太刀打ちできる精神力、体力が養えるかな、と疑問に思うことがあります。供給する側はいたしかたないと思うのですが、家庭では、お母さんはあまり神経質にならず、ご自身や子供さんたちも、自分の舌や鼻(におい)、五感で体験することも大事だと思います」。
そして、仕事の選択に関しても「何でも挑戦してみれば、見えてくるものがあります。気に入った職場がなければ、自分で仕事を作ってもいいんじゃないかな」と。感謝して食べ、それを活力として元気に生きる。それがいちばん大事。伝えられたのは、そんなシンプルなことのような気がした。

取材 2014年8月