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管楽器リペア師

内なる自分に導かれて

脇 政美(わき まさみ)

"目の前の楽器に集中します。楽器本来の音に
戻すため、演奏者のベストな状態に近づけるため"

あるフルート奏者から、管楽器のリペア師という職業があると聞いた。リペア師とはいったいどんな仕事なのだろう。楽器店を訪ねてみると、クラリネットやサクソフォン、そこにはピカピカの管楽器がならんでいた。奥から作業用のエプロンをつけた男性が現れた。脇さんである。

楽器との出会い

小学5年生のときだった。「かっこいい!」運動会で入場行進の先頭に立つ勇姿をみて金管バンドへの入団を決める。そこでユーフォニウムという楽器を担当することになった。「その楽器がたまたま空いていたんですが結構地味で…。本当はトランペットをしたかったんです(笑)」中1では念願だったトランペット、中2からはホルンを担当した。「ホルンは妙に気に入る音色でした。最初は楽譜が読めずにメロディを暗記して演奏していました。楽譜が読めるようになると、音楽の授業のときなど、譜面より音が長く伸びていたりした時、『あれっ?』と気になるようになりました」中学の近くにある高校から聞こえてくる吹奏楽部の演奏は進路選択の大きな決め手となった。当時、九州大会へも出場していた高校だった。高校でもホルンを担当。就職を考える時もそこには音楽があった。吹奏楽団がある企業の入社試験を受けたが残念ながら不合格。その後、愛知県で就職が決まり、楽器とは一時離れることになる。

管楽器リペア師

新たな岐路

脇さんの中で音楽なしの生活はなかったのだろう。勤務地近くの市民吹奏楽団に所属し、そのとき初めて自分の楽器を持った。「同じ楽団に楽器の専門学校を卒業した人がいて、リペア師という職業を初めて知りました」何か楽器と関わる仕事がしたい、この技術を身につければ鹿児島へ帰ることもできる、そう考えたという。「ただ、会社を辞めて専門学校というのはなかなか踏ん切りがつきませんでした」しかし、内なる自分には抗(あらが)えず、23歳で新たな岐路に立つ。専門学校では2年間、金管、木管あわせて6種の楽器演奏を習い、楽典を学び、楽器をばらしては組み立てたりなど、徹底的に基本を仕込まれる。就活では現在の会社を訪問。入社も叶った。「最初の数年は売り場での接客でした。各メーカーの楽器の特徴、お客様の要望など、そこで多くのことを学びました」徐々にリペア師として楽器に触れるようになる。

リペア師という仕事

リペア師という仕事

リペアの仕事は、まず楽器を分解してクリーニングを行う。中に入った異物が原因で不具合が生じていることもある。「トランペットなどの金管楽器は、指で押さえて音階を変えるピストン部分や、ぬきさし管の点検が主ですが、重症でなければ2時間程度で終わります。木管楽器の場合はもっと繊細な調整が必要となります。通常でも3~4時間はかかりますね」フルートやクラリネットなどの木管楽器には音階を変えるための穴や、それを指で押してふさぐキイ、キイの裏にはタンポという部分がある。息が中に入ると、水蒸気となってタンポに浸透し膨張。乾燥すると収縮する。季節や練習量によっても微妙に穴のふさぎ具合が変わってくる。根気のいる細かい作業だ。妥協のない調整が演奏者を陰で支えている。学校の吹奏楽部にとってもリペア師の存在は心強い。楽器の数が多いときは、道具を持ち込み、学校の音楽室で点検を行うこともある。「コンクール前など、一日100本の楽器をみたこともありましたが、今は体力的に無理です(笑)」脇さんは県内のコンクールの際は吹奏楽連盟からの依頼で、運搬中のアクシデントなどに備えて会場に待機しているそうだ。

新たな岐路

取材 2011年11月 No.6 しごとびと