歯科医

髙倉 暢孝(たかくら のぶたか)

1966年生まれ 鹿児島市出身 日本大学歯学部卒業。2000年6月、鹿児島市に高倉歯科医院を開院。

"口コミは、以前の患者さんに、間接的に『ありがとう』と言われているみたいで、一番うれしい瞬間ですね"

「髙倉さんは、虫歯はありますか」この率直な質問に「歯科医になりたての頃は自分で治していました。抜歯もしました(笑)。鏡を見ながら、こんなふうに麻酔をかけて。今だったら後輩の歯科医にみてもらいますけど」髙倉さんは茶目っ気たっぷりに答えて下さった。

高校の途中までは工学部志望だったという髙倉さん。とにかく車が好きで、専門誌などを見ては、車の設計に携わる研究職に憧れていた。「ところがある日、父親が言ったんです。“そんな仕事は工学系の中でもスペシャリスト中のスペシャリスト、日本の頭脳が集まる仕事だぞ”」やはり夢の世界なのかと断念した。その後、友人たちの影響を受けその進路は医学科受験へと向かう。難関から難関への方向転換である。「物理も化学も校内偏差値30~40。現役合格などどだい無理な話ですよ」。

親不孝の浪人生活

「1年目は鉛筆を持った時間がトータル3時間、2年目は3日(笑)。とにかく自分の高校にはいないタイプの友人たちと過ごす時間が楽しくて…」東京での浪人生活3年目でやっと事の重大さを自覚した。本当の受験勉強が始まった。やりだすと物理も化学も楽しくなり、偏差値は70を超えることもあったという。それでもその年の受験はすべて失敗。浪人を繰り返すたびに、就職も頭をよぎりはじめ、同時に医学部・歯学部という資格でなければ就職もままならない年齢にもなっていた。「医学部だけでなく歯学部も受験してみては」父親のアドバイスがあった。四浪後の春、歯学部に合格した。全受験者の中、一位の成績。特待生としての合格だった。

父親の存在

大学は6年で無事卒業し、学生時代に通院していた神奈川県川崎市にある歯科医の方から、うちで働かないかと声がかかった。そこで勤め始めて1年が経った。都会での生活も11年。気持ちのどこかには地元の鹿児島で開業したいという思いがあった。久しぶりの父親からの電話で「開業を考えているのなら早目に地元で地盤をつくった方がいい」その言葉がきっかけとなり、鹿児島に戻り勤め先を探し始めた。鹿児島では勤め先は見つからなかったが、隣県熊本の八代市で2年、熊本市で2年勤めた後、念願の鹿児島での開業にこぎつけた。「今思い返すと、人生の岐路で父の存在がありましたね。普段何も言わない人だから、たまにボソッといわれるとその言葉に考えさせられるんですよ」。

人と話すのが好きだから、歯科医は自分の性格に向いていると思います。

"人と話すのが好きだから、歯科医は自分の性格に向いていると思います。"

100%サービス業

開業から2年間は一日の来院数が15人を超えなかったという。それでも、新しい患者さんの中に“○○さんの紹介で来ました”という患者さんが少しずつ増えていった。「そういう口コミは、以前の患者さんに間接的に“ありがとう”といわれているみたいで、今でも一番うれしい瞬間ですね。歯科医ですので、インフォームドコンセントは基本中の基本です。患者さんに勘違いや誤解をされないよう、痛みの原因、治療の方法や順番、治療時や通院中に考えられる痛みの種類や程度など詳しく説明します」患者さんとのコミュニケーションがとれないと成り立たない職業だと語る髙倉さん。あくまでもサービス業であるという立場で一人一人の患者さんに合わせた治療法を考えている。治療で使う道具の扱い一つでも丁寧な安定した動きでなければ患者さんに不安を与えてしまう。麻酔にしても麻酔注射の前に表面麻酔をし、できるだけ細い注射針を選び、麻酔液も体温と同じ温度にしておくことで、できるだけ痛みを与えない治療につながるという。怖がったり、泣いたりする子供には、5分だけ我慢してと約束して、必ずその時間内でできる最善の治療をする。子供も母親も納得する形が大切と話す髙倉さん。

口は健康の入り口

髙倉さんは現在、鹿児島県歯科医師会の学校歯科部会に所属し、歯科衛生、虫歯予防などの啓発活動に尽力している。具体的には学校歯科部会のメンバーが1年に一つ大きなテーマを決め、それに沿って数か月にもわたって勉強会を開く。その研究結果を、県内の校長先生や養護教諭が一堂に集まる場で講演を行っている。また、担当する中学校の歯科検診の後には先生、PTAの保護者、生徒会役員、保健部の生徒たちを交えて虫歯予防などの話をしている。「たとえば、食育という言葉がありますが、口は文字通り健康の入り口なんです。そして歯には咀嚼という噛み砕いたものを唾液と混ぜ合わせる大切な働きがあります。この唾液こそ食育では最も大切なものなんです。キシリトールという成分の入ったガムは抗菌作用もありますが、それ以上に口の中に唾液を出させる働きの方が歯にとって、そして健康にとっていいのです。そんな話を参考にして、子供たちのかむ回数が少しでも増えるようにと給食の時間を少し長くしてくれた学校もあるんですよ。学校歯科部会に所属して6年になりますが、その間に勉強した食品添加物、飲み物のpH、おやつの食べ方など、どれをとっても患者さんに還元できる有益な知識となっています」。

忙しい仕事をしたい

「ある日、寝たきりのご老人の家族の方が、訪問診療はできないかとたずねてこられました。態勢はゼロ。でも、患者さんからの要望があれば断ることはしたくないんです」さっそく訪問診療の態勢づくりに入った。ポータブルユニット(治療台のコンパクト版)と、その機材を積み込める車両を購入し、昼休みや土曜日の午後などを訪問診療に当てられるように歯科衛生士たちスタッフと調整していった。「忙しい仕事をしていたいんです。ワイワイガヤガヤした診療所がいいんです。仕事の報酬としてお金も大切ですが、それよりいろいろな人や患者さんと関わることで歯科医としてのスキルも上がりますし、職場に活気ある真剣な環境があると、自分もまわりも全体が前向きになるんです。人と話すのが好きだから、歯科医は自分の性格に向いていると思います。比較的長い期間、患者さんと接することができて仲良くなれるんです」そう、笑顔で語ってくれた髙倉さん。その人懐っこい雰囲気は「歯医者さんにいくのはちょっとこわい」のハードルをグンと下げくれている。