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警察官

ある日突然

長野 倫美(ながの ともみ)

"普通の学生から、なぜかいま警察官。
道が開けたのは、心に正直になった時"

車を運転中、パトカーや白バイを見かけると、なぜかドキッとする。なにも悪いことをしていなくても、なんとなく威圧感のあるのが警察官の制服だ。ちょっとドキドキしながら県警本部へ伺った私たちの前に現れた人は、私の中の警察官のイメージを、よい意味で打ち砕くにこやかな笑顔の女性だった。

ある日突然

高校三年の夏、部活を終えて帰宅し、なにげなくつけたテレビの番組が、その後の運命を決めた。番組では、殺人、強盗などの凶悪犯の時効について取り上げていた。時効とは犯行から一定期間が過ぎると起訴できなくなる制度(殺人・強盗殺人については2010年、時効は廃止された)。「悪いことをしたのに捕まらなければ無罪って許せない!」。そう強く思った長野さんは、警察官になって悪い人を捕まえたい、との思いにかられた。しかし、それまで何となく流れてきた学生生活。いきなり湧きあがった思いに自分でも戸惑った。高校卒業後はとりあえず大学へ進学して好きな英語を勉強してみたいと思っていたし、自分が警察官になれるとは思わなかった。結局、第一志望の大学は失敗し、法学部へ進学することになったが「大学へ通っているうちに気が変わらなかったら、警察官を目指そうと思いました」。

ある日突然

心に嘘がつけなかった

大学三年生の冬、就活の時期を迎える。まだ警察官への気持ちはあったが、女性警察官の採用は少ないからとあきらめ、就活に奔走する友達の流れに混ざって一般の企業説明会に参加した。企業勤めも楽しそうだった。しかしエントリーシートを目の前にすると、志望動機をまったく書くことができなかった。「何も言葉が出てこなくて・・・。このままだと就職できない、と焦っていました」。そんなある日、友達に何気なく「ほんとは警察官になりたかったんだけど、倍率が高いんだよね」と本音を吐いた。すると「なればいいじゃん、警察官に。倍率高いなら、勉強して受かればいいよ」と、こともなげに言われた。「そうか!」。その瞬間、心が決まった。決心してから二カ月猛勉強し、鹿児島、熊本、広島の警察を受けた。
結果は全敗。それでも他の職に就こうとは思わなかった。あと一年勉強させて、と両親に頭を下げ、公務員受験の専門学校に通って勉強を続けた。そのかいあって、翌年、晴れて鹿児島県警に採用された。「熊本出身者なので、よそ者扱いされるのではと心配でしたが、思い切って飛び込んでみました」

昇任試験に合格した九州各地の警察官と研修の合間に
写真右:昇任試験に合格した九州各地の警察官と研修の合間に(福岡市・九州管区警察学校)

女性ならでは、の使命も

予想に反し、よそ者の寂しさを感じたことはまったくなかった。それより男女同じメニューが課せられる警察学校の訓練についていくのが必死だった。「毎日、死ぬか生きるか」の厳しさだったと笑うが、そんな体験を通して同期生との友情が深まっていった。「事件に向かう時、皆がひとつにならないといけないので人間関係はとくに大事にする職場です」。性別、年齢を超えた絆がある世界だ。
警察学校卒業後は警察署勤務を経て平成25年秋、現在の係に就いた。「まだ半人前の私が採用係になるなんて思ってもみなかった」そうだが、現在は一般企業の総務に当たる警務課で採用係として採用試験や広報などの任務に当たっている。平成25年夏には昇任試験に合格、来春からは巡査部長への昇進が決まっている。「昇進なんて全然考えていなかったのですが上司が後押ししてくれて」。ここでも周囲の協力に助けられた。
「交番勤務の頃、女性警察官がいたので安心しました、と交番を訪れた女性に言われたことがあります。女性にしかできないこと、女性だからできることもいろいろあると思うんです」。人生経験を重ねながら、一生仕事を続けたいと思う。「結婚や子育てを経験したおまわりさんの方が、相手の気持ちがわかっていいと思うんです。それに制服好きだから」と笑う。自分の心に正直になるとき、きっと道はひらかれる、のである。

就活中の大学生を前に警察官の仕事と魅力を伝えるPR活動(鹿屋体育大学)
就活中の大学生を前に警察官の仕事と魅力を伝えるPR活動(鹿屋体育大学)

取材 2013年11月 No.13 しごとびと