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鹿児島市水族館公社学芸員

鹿児島市水族館公社学芸員

柏木 由香利(かしわぎ ゆかり)

1979年 東京生まれ あきる野市立西中学校、私立創価高校、琉球大学 理学部海洋自然学科化学コースを経て、平成13年鹿児島市水族館公社に入社。展示課にて学習交流等に従事。

"『高校には行きません。雇ってください』
鴨川シーワールドに手紙を書きました(笑)"

鹿児島市北埠頭近くの『いおワールド かごしま水族館』。昨年3月に続き、今年5月にもイルカの赤ちゃんが誕生し話題を呼んでいる。裏の事務局から入っていくと、笑顔の素敵なスタッフが出迎えてくれた。今年勤続13年の柏木さんである。外よりいっそう潮の香りが漂う館内を案内していただきながらのインタビューとなった。

山育ち

柏木さんの育った東京都あきる野市には海がない。山で育った当時の暮らしの中で、海にいけるのは1年に1度だけ。それは特別な時間だった。特に小学校6年生のときに家族で行った鴨川シーワールドでシャチのショーを見た柏木さんは、水族館で働くことを決意。「係りの人に『ここで働きたい。ねぇ、どうしたらいいの』と、まとわりついて離れない迷惑な子どもだったと思います。(笑)中学の頃には鴨川シーワールドに『高校には行きません。雇ってください』と手紙も書きました」もちろん、返事は来なかった。結果、高校に進学するが、調べれば調べるほどに水族館で働くということの難しさを知る。そもそも求人があまりないということを知り、それでも海にまつわる仕事がしたいとの思いから、進学においては琉球大学の海洋自然学科を志す。

新天地 沖縄

新天地 沖縄

恋焦がれた海辺の環境。琉球大学での4年間は、まさに理想の学生生活だった。朝から海に潜り、午後には大学でサンゴや海水について学び、そして夕方からはまた海へ…。そんな日々の中で、水族館への思いを断ち切れずにいたところ、ひょんなことから鹿児島市水族館での求人募集を知る。一般常識試験と専門知識の試験。『クラゲの一生がどのようなものかを筆記しなさい』『マングローブの役割を説明しなさい』といった専門的な知識を問う問題に必死に向き合い、倍率50倍以上の難関を見事に突破。夢への切符を手にした。「夢を夢のままで終わらせずに、まずは動いてみることが大事だったんだなあと思います」

水族館という生態系を目指して

水族館の仕事

この日、私たちは水族館の舞台裏も案内してもらった。『いおワールド』の顔ともいうべきジンベエザメの泳ぐ巨大水槽。通常であればエスカレーターをのぼって眼前に迫る巨大な海のパノラマ。その水槽を上から眺めさせていただいた。定期的に酸素ボンベを背負ってこの巨大水槽をみがくそうだ。聞けば大学時代にはスキューバの免許を取得していたという。さらに裏手に回ると、若いスタッフたちが水槽を囲んで何やら議論をしていた。手には図鑑のようなものを持っている。柏木さんが一言二言アドバイスを送った。「自分もそうだったように、後輩たちにも、試行錯誤しながら海の生き物に詳しくなって欲しいですね。すぐに答えは教えないようにしているんです。自分で調べたら忘れないですから」柏木さんの仕事は水族館にまつわる動植物の飼育や展示、館内の案内だけではない。学校へ出向いて出前授業を行うこともある。また水族館を訪れる人たちが、楽しみながら海の生き物のことを学ぶことができる学習プログラムを開発するのも柏木さんの仕事だ。そのほか、早朝に漁船に同乗して獲れる魚類を調査したり、病気になってしまった魚の治療のために水槽を移し変えたり、展示のための看板や水槽のデザインを考えたり。「仕事の幅が本当に広いので、水産学部や、理学部生物学科の卒業生だけしか採用しないというわけではないんです。文系学部の出身者もいます」

水族館という生態系を目指して

水族館という生態系を目指して

生きもの相手の仕事には、正解がない。柏木さん自身、これまでに多くの失敗を経験してきたという。自身の管理ミスで魚や海藻を死なせてしまったことも。それでも、頑張れる理由は、小さい頃からの「海が好き」という思いが今でも強く残っているから。不幸にも水族館の中で死んでしまった生き物については、詳細な記録をとり、自身のデータベースに残しているという。「何が悪かったのか、原因を徹底的に考え抜くこと。そして、2度と同じ間違いをしないこと。水族館という存在自体、自然の生態系を消費しているという側面があります。けれど、水族館の中で自然に近い環境を構築し、そこで再生産できれば、それ以上自然から消費しなくて済むし、そして私と同じように水族館を通して海や自然が好きという子どもたちが多く育ってくれれば、私たちの取り組みが自然にとっても意味のあるものになると思っています」そう真剣な眼差しで語った柏木さん。海に恋焦がれた少女は、そのまま大人になって、海のそばで海を愛し続ける。

取材 2013年6月 No.11 しごとびと