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森林官

森のディレクター。

水野 由芽(みずの ゆめ)

"木々の声を聞き、森を守り育む
森のディレクター。"

映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』を観て山村の暮らしや林業に興味をそそられた人も多いことだろう。豊かな森は多様な「いのち」や山村文化をはぐくむだけではなく、地球温暖化や土砂災害の防止、豊かな水資源の供給など重要な役割を担う大切な国民の財産。健全な森を守ることは、とても大切な仕事だ。

関心のおもむくまま道をひらいてきた。

日本の国土のおよそ7割を占める森林。そのおよそ3割を占める国有林を管理するのが森林官という国家公務員である。今年4月、鹿児島森林管理署栗野森林事務所に着任したばかりの新進気鋭の森林官・水野由芽さんを訪ねた。
水野さんは高校生の時に観たテレビ番組をきっかけに、自然保護について関心を抱いた。進学した関西大学では微生物の研究にいそしんだが「もうちょっと大きい生きものを相手にしたい」と、3年次で滋賀県立大学に編入。昆虫を研究対象に選んだ。研究を続けるうち、虫と関係の深い植物に目が向いた。当時、植林ボランティアのため中国の内モンゴルを訪れたことがきっかけで、緑地化を研究する大学院へ進学。卒業後は、公園の緑化を推進する団体へ就職した。仕事はそれなりに充実していたが、社会人になって2年目、長野の森林事務所で働く同級生を訪ねた時、森林官を目指すことを心に決めた。仕事を辞めて数カ月、独学で公務員試験へ向けて猛勉強を積み、みごと林野庁に採用された。「この時、本当にやりたいと思ったことは、努力すれば叶うってことを実感しました」。入庁後は、熊本市の九州森林管理局と屋久島森林管理署において数年間勤務し、今年4月、栗野への赴任とともに念願の森林官に任命された。

関心のおもむくまま道をひらいてきた。

憧れの森林官デビュー!

森を守り育てるためには、むやみな伐採や乱開発を防ぐと同時に、密集した木々を適切に間引く「間伐」が不可欠だ。木々が密集すると、互いに根を張ることができず、健やかな生長が妨げられ、二酸化炭素の吸収量も低下する。また地面に日光が届かないため、植物が育たず、むき出しになった地面の土砂は雨などで流出し、土砂災害を引き起こす危険性も高くなるのだ。国有林を見回り、適切な間伐を計画・実行・管理するのが森林官の大切な役目のひとつだ。間伐のための立木の調査や収穫検査などのほか、国有林と民有地の境界の調査・管理のため、水野さんは、男性の森林官と同じように、作業着とヘルメット、腰には鉈(なた)を装着し、ほぼ毎日森の中を歩き回る。
ある日の調査に同行した。水野さんは、四駆の公用車を駆って細い山道へどんどん入って行く。何を目印に進んでいるのか、この先道があるのか、素人目には分からない。「今日の現場はここです」。視覚、触覚、嗅覚…五感を働かせて森を頭に入れているのだ。どこも同じように見える山には、町と同じような住所(林小班・りんしょうはん)があるという。林小班ごとに樹種や樹齢、面積、傾斜などを細かく記録した「森林調査簿原簿」を作成するのも森林官の仕事。この原簿をもとに、緻密な管理が行われ、森の秩序が保たれているのだ。

憧れの森林官デビュー!

まっすぐ伸びる若木のように。

森林官の仕事は、森の管理・調査のほかにも、作業員の健康管理や民間に貸し付けている土地の管理、問い合わせへの対応、イベント活動なども含まれる。森と人を結ぶ使命も担っているのだ。「どの職場にも言えると思いますが、働く=人なので、人との繋がりを大事にしながら、管轄地域の方々と積極的に関わって情報交換し、よりよい森林づくりをしていきたいと思っています」
休日には温泉巡りや山登りなどを楽しむ、根っからのアウトドア派。森林官の仕事はまさに天職のようだが、苦手なことや課題もある。「ツメが甘いことが私の弱点だと思います」との自己分析。細かい作業や緻密な事務処理などはちょっと苦手だとか。克服するため、毎日の出来事を詳細にメモすることを習慣づけている。憧れの仕事に就いたからこそ、よりよい仕事を目指して努力する。迷いのない新人森林官の姿は、森で見たまっすぐな杉の若木の姿と重なって見えた。

取材 2014年5月