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食品卸売業

選択したことを正解にする

寺師 大策(てらし だいさく)

鹿児島の誇りを食文化に乗せて世界に届ける。


鹿児島の誇る食資源のひとつ、豚。その流通には、豚の肥育を担当する生産者以外にも、店頭で販売を行う小売業者、商品化を行う加工業者など多くの人の手が必要となる。生産者と消費者をつなぐ道筋をつくる「卸売業」を担う株式会社寺師の寺師大策さんに、これまでの歩みをお聞きした。

 

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生徒会長になろう

中学生のころから、いつかは政治家になって鹿児島を良くしたいと思っていた寺師さん。「中学、高校と、少しやんちゃな青春時代でした。」と笑う。高校に入ると勉強への興味を失い、2年生のころには学校を退学することまで考えていたという。くすぶる気持ちを見抜いた父にはっぱをかけられ、一念発起。「まずは高校で一番になる。そのために、まず生徒会長になろうと思ったんです。そこから、いろんなことが変わり始めました。ものごとをポジティブにとらえられるというか」。行動することで大きく価値観も変わったという。進学で一橋大学の経済学部を選んだのは、政治家として活躍するために経済の知識と経験が役に立つと思ったから。経済学部の学問は、世の中のさまざまな事象を経済(数式)でとらえるもの。文系出身者にとってはハードな授業が多い環境だったが、ほとんどの単位を3年次までに取得するなど、前向きに知識と知恵を吸収した。就職活動も、「企業経営の経験を積んだうえで、しかるべきタイミングで政治をしたい」との思いから、東京のITコンサルティング企業に内定がきまった。

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仕事のおもしろさに気づく

けれど、東京での社会人生活に半年で終止符を打つ。会社での研修を受ける中で強くなる思いがあった。「もっと深く事業に関わる仕事がしたい。たとえば、実家の会社を中から変えるような」。結果として寺師さんは23歳で東京を離れ、家業の食品卸売企業に転職。営業担当として合流することとなる。合流して初めて、寺師さんは食品卸売業のおもしろさに気づく。食肉の業界は、家畜の肥育を行う生産者、商品化を手掛ける加工業者、最終的に消費者に届ける小売業者(スーパー・百貨店など)など多くの人の手でつくられている。寺師さんが担当するのは、加工業者と小売業者の間に立つ卸(おろし)といわれる業務。「たとえば、あるお店がいろんな種類の肉を取り揃えようとすれば、それぞれ違う肉を扱う加工業者を一軒一軒訪ね、交渉し、数量や配送などを管理しなければなりません」。卸業者が間に入ることで、小売業者にとっては商品の仕入れを効率化でき、また、加工業者にとっては営業の手間を省くことができるのだ。

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品質と信用のために

「本来、お店が直接加工業者から仕入れることで、コストは低くなりますから、ただのつなぎ役であれば、私たちは必要のない存在といえます。けれど、今も多くのお店が仕入れと物流を私たち卸業者に任せてくださいます。お店の多くは多様なお客様の期待に応えたいと思っておられます。ですから、我々のような卸業者に『高品質でお手頃な商品を安定的に仕入れる』という重要な役割を期待しておられるのだと思います。そのために、私たちは常に質の良い加工業者様との関係づくりと、店舗様へのご提案の質を高めるために日々鹿児島をはじめ全国を走り回っているんです」。

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どんな選択でも自ら正解にするしかない

現在、鹿児島県産の豚肉を取り扱っている寺師さんの会社では、多くの顧客が関東圏の小売店舗。関東圏での鹿児島産食肉の評価は高く、まだまだ多くのニーズがあるという。寺師さんの政治家になるという夢は、「鹿児島の豊かな食文化を世界に発信する」「鹿児島ってすごいんだぞ!という誇りを発信できる企業を目指す」という具体的な目標に変わった。そのために、今は会社に経営企画室を新設、自身が室長となって企業の組織整備に本格的に着手している。若くして大きな決断をした寺師さんは、最後に笑ってこう語ってくれた。「いろんな回り道をしてきましたが、その都度全力で走ってきました。自分の思いとしては、どの選択肢を選んでも、自分で正解にするしかないと思うんです。しごとびと読者の中学生・高校生には、ぜひとも自分の決断を自ら正解にするんだ!という気持ちで、いろんなことにチャレンジしていただきたいと思います」。

 

取材:2015年8月